バレンタインデー当日。

午前中に家を出た私は、電車とバスを乗り継いで地元に帰り、司の家に向かった。

玄関扉の前に立ち、鏡で身だしなみを整える。


黒いロングコートから覗く、白いボウタイブラウスと茶色のタイトスカート。

沢村のアドバイスを参考にコーディネートを組んでみた。


髪の毛は内巻きで上品に。
メイクは、先日購入した赤リップを使って、全体的に大人っぽく。

1時間かけるところを30分プラスして丁寧に仕上げた。


普段からあまり言及されることはないんだけど……少しでも変化に気づいてくれると嬉しいな。


淡い期待を抱きつつ、鏡をバッグにしまい、インターホンのボタンを押した。



「はーい」

「司っ、来たよ〜」

「待ってて。今開けるから」



カメラに向かって手を振ると、廊下を走る足音が聞こえてきて、扉の曇りガラスの部分に人影が現れた。



「いらっしゃい。上がって」

「お邪魔しまーす」



会釈をして家の中へ。


あぁ、このローズの香り……久しぶりだ。
最後に家に来たのは、まだ引っ越す前だったっけ。

どうりで懐かしい気がするなと思ったら、もう1年近く経ってたんだ。