金曜日、渡さんが予約してくれた居酒屋さんはとても賑わっていた。
チェーン店なのに個室のみの造りは居酒屋さんとしては珍しく感じたけれど、渡さんの話では最近はこういったお店も増えているという。

主に女性受けがいいと聞き、たしかにと思う。個室なら周りの目を気にせずたくさん話ができるし、お店の客層だとかを心配して変にかしこまらなくてすむから気楽だ。

それに、アルコールが入ったせいで気が大きくなったひとに絡まれたりする、なんてこともない。

このお店は渡さんが今営業をかけていて、今日もその一環として誘われていた。
顔を覚えてもらうため、ここ二ヵ月は頻繁に通っていると聞き、営業職の大変さを知る。

そんな中、一緒に来ていた君島先輩に東堂さんとの仲を聞かれ、先日のスタンプの件を相談すると、渡さんが「スタンプ……可愛いな」と独り言のように呟いた。
そのあと、眉をしかめられる。

「可愛いけど、すれてなさすぎて心配になる。春野のそういう部分、かわい子ぶってるとか猫かぶってるとかいうヤツ、絶対いるじゃん」

「まぁ、いるよね」とすぐにうなずいた君島先輩が、苦笑いを浮かべる。

「社会人にもなってあまりに無垢でキラキラされたら普通鼻につくものだもん。〝スタンプ〟とか言われたら、〝初心ぶってるんじゃねぇよ〟とか思う女子はたぶん多いよ。私だって、今はもう春野ちゃんが本当にそういう子だってわかってるから素直に聞けるけど、最初はイラッとしたもん」