(確かに私はズルをしてでも拓実君と付き合えるようになりたいって思っていた。

あのクラスのアイドル、木村菜々子を傷つけることがあったとしても……。

でも、自分が自分でなくなるのは絶対に嫌だ。

私は誰かに自分を支配されたくないから)


里山高校の校舎に忍ぶ込んだあの日に見た浜中美澄のことを思うと、不安と恐怖が心の中でふくらんでくる。


浜中美澄は本当に私の中にいるのだろうか?


私はその答えが知りたかった。


「おはよう、咲良!」


私が真剣に考えごとしている最中に、いつの間にか教室に来ていた優子が、私の肩を叩いて私に話しかけてきた。


私は突然、肩を叩かれたことにドキリとして、顔を上げると、後ろにいる優子の方を振り返った。


「驚かさないでよ、優子。

ビックリしたじゃん」


「なんでそんなにビックリするの?

私はいつも通りに咲良に話しかけただけだよ」


「ちょっと考えごとしていたからさ……。

肩を叩かれてドキッとしたよ」


「あっ、そういうことね。

で、考えごとって、なんなの?」


優子はそう言って笑っていたが、私は優子みたいに笑えなかった。


私の中にいるかもしれない浜中美澄の存在が、私の気持ちを憂うつにさせていた。