「よっ、有島。

朝からなんか楽しそうじゃん」


私は聞き間違えるはずのないその声に振り返った。


だって私は、いつだってその声を意識していて、その声の人を思っていたから。


私が息を詰まらせながら振り返ったその先に、須藤拓実は立っていた。


長身でイケメンで優しい笑顔の拓実を見ると、胸が苦しくなってくる。


今まで拓実が話しかけてくることなんてなかったのに、どうして今日は私に話しかけてきたのだろう?


私は拓実に話しかけられても、緊張してなにも話せずにいた。


本当の私は、昨日の浜中美澄のように、好きな人を目の前にしてスラスラと言葉を繋げることなんてできやしない。


それどころか、胸が苦しくなって、この場から逃げ出したい気持ちにすらなってしまう。


だけど、今のままじゃ、私の恋は永遠に片想いだ。


私に必要なのは、少しの勇気だ。


ドキドキしていても、拓実と話していられる少しの勇気だ。