「莉緒、こっち」
莉緒に声をかけ、人波を縫う。
誘導されるままついていくと、薄暗い路地裏に入った。
途端に人気がなくなり、寂しくなる。
こんなところに連れてきてどうするつもりだ?
周りを警戒しながら足を進めていると、
「これ、アナタのかしら」
声がして莉緒と同時にふり向く。
それは──さっき会ったばかりのサクラ本人だった。
差し出されているのは、ピンク色のタオルハンカチ。莉緒が気に入ってよく使っているから知っている。
サクラは、真っ白なコートを羽織り、肩からはグレーのファーをまとっていた。
いきなりのことに俺は固まるが、それ以上に固まっているのは莉緒。
「莉緒、莉緒っ!」
耳元で声をかけると、ようやくハッと我に返る莉緒。
「そ、そうですっ。ありがとうございますっ」
ふるえる両手をそっと差し出し、ハンカチを受け取る。



