余命38日、きみに明日をあげる。


「莉緒、こっち」

莉緒に声をかけ、人波を縫う。

誘導されるままついていくと、薄暗い路地裏に入った。

途端に人気がなくなり、寂しくなる。

こんなところに連れてきてどうするつもりだ?

周りを警戒しながら足を進めていると、

「これ、アナタのかしら」
 
声がして莉緒と同時にふり向く。

それは──さっき会ったばかりのサクラ本人だった。

差し出されているのは、ピンク色のタオルハンカチ。莉緒が気に入ってよく使っているから知っている。

サクラは、真っ白なコートを羽織り、肩からはグレーのファーをまとっていた。
 
いきなりのことに俺は固まるが、それ以上に固まっているのは莉緒。

「莉緒、莉緒っ!」
 
耳元で声をかけると、ようやくハッと我に返る莉緒。

「そ、そうですっ。ありがとうございますっ」

ふるえる両手をそっと差し出し、ハンカチを受け取る。