サインをしてもらった人たちが、ホクホク顔で出てくるのをうらやましそうに眺める莉緒を見て、失敗したなと少し思った。
それから書店をふたりでぶらぶらする。
莉緒はサクラの写真集を購入した。
「そろそろ行くか?」
中途半端だったかと思案していた俺に、莉緒の笑顔。
「琉生、ありがとう、連れてきてくれて」
それは、決して心残りのある顔でなく、満足したような温かいものだった。
「お、おう……」
そんな笑顔を見せられて、無性に涙があふれそうになった。大したことをしたわけじゃないのに、こんなに喜んでくれて。
結構時間が経っていたみたいだ。
空はくすんだ灰色に覆われて、北風が強くなっていた。
そろそろ、街灯もともり始めるころかもしれない。
遅くなる前に帰らないと。
人々の足も心なしか速くなっている雑踏の中、ナオが前方から手招きしているのが見えた。
あたりを見回しても、それに反応するものはおらず。やっぱり俺に合図をしているのかと思い。



