余命38日、きみに明日をあげる。


サインをしてもらった人たちが、ホクホク顔で出てくるのをうらやましそうに眺める莉緒を見て、失敗したなと少し思った。

それから書店をふたりでぶらぶらする。

莉緒はサクラの写真集を購入した。

「そろそろ行くか?」

中途半端だったかと思案していた俺に、莉緒の笑顔。

「琉生、ありがとう、連れてきてくれて」

それは、決して心残りのある顔でなく、満足したような温かいものだった。

「お、おう……」

そんな笑顔を見せられて、無性に涙があふれそうになった。大したことをしたわけじゃないのに、こんなに喜んでくれて。
 
結構時間が経っていたみたいだ。

空はくすんだ灰色に覆われて、北風が強くなっていた。

そろそろ、街灯もともり始めるころかもしれない。

遅くなる前に帰らないと。

人々の足も心なしか速くなっている雑踏の中、ナオが前方から手招きしているのが見えた。

あたりを見回しても、それに反応するものはおらず。やっぱり俺に合図をしているのかと思い。