そんな残酷なことがあるか。
 
それでも、俺はあきらめてない。
 
だってそうだろ。誰かがあきらめた時点で終わりなんだ。
 
──と、空気がさらにひんやり冷たくなった。

空気の流れが止まったような気がして、違和感を覚える。

ぶるるっと小さく身震いをしたとき、すっ……と、目の前に影が現れた。

気配もなく現れた人影に驚きつつも、莉緒の両親か誰かだろうと、俺は垂れた頭をゆっくり上げ──て、息をのむ。

「……っ」
 
目に入ったのは、全身黒づくめの男だった。
 
やけに丈の長いコートを羽織っていて、フードを目深にかぶっており顔がよく見えず、見るからに怪しい。
 
……なんだ、こいつ。

「俺は、()(かみ)だ」
 
男は、抑揚のない声で言った。

死神(しにがみ)……?」

繰り返すと、男は毛だるそうにフッと横に息を吐いた。

「死神ではない、死の神だ」

「……は?」