余命38日、きみに明日をあげる。


「……っ……っ……」

ハッとした。

ナオにしては珍しく、目深にかぶったフードの目元からは、涙のしずくが零れ落ちていたからだ。

涙声で、ナオは言った。

「先輩は、最初からこうするつもりだったんです……」

「……こうするって……?」

「今、先輩はこの病院の手術室に居ます」

「……っ、それって……」

横断歩道で、瀕死の状態で俺の手を握ったトーヤを思い出す。

もしかして。

「莉緒に心臓を移植するのは、トーヤなのか?」

俺の切迫した問いかけに、ナオは唇をきつく結びながらうなずいた。

「どういうことだよ、わかるように説明してくれよ!」

なにひとつわからない。

「トーヤは……死の神だったんだろう? なのにどうしてみんなに見えて……莉緒に心臓移植なんて」

死の神には、体内に流れる血液もなければ、体温もないと以前ナオが言っていた。

そもそも人間ではないのだから。

そんなトーヤが、なぜ……。