「……っ……っ……」
ハッとした。
ナオにしては珍しく、目深にかぶったフードの目元からは、涙のしずくが零れ落ちていたからだ。
涙声で、ナオは言った。
「先輩は、最初からこうするつもりだったんです……」
「……こうするって……?」
「今、先輩はこの病院の手術室に居ます」
「……っ、それって……」
横断歩道で、瀕死の状態で俺の手を握ったトーヤを思い出す。
もしかして。
「莉緒に心臓を移植するのは、トーヤなのか?」
俺の切迫した問いかけに、ナオは唇をきつく結びながらうなずいた。
「どういうことだよ、わかるように説明してくれよ!」
なにひとつわからない。
「トーヤは……死の神だったんだろう? なのにどうしてみんなに見えて……莉緒に心臓移植なんて」
死の神には、体内に流れる血液もなければ、体温もないと以前ナオが言っていた。
そもそも人間ではないのだから。
そんなトーヤが、なぜ……。



