俺は、走り出していた。
「脳死の患者の名前は? 今どこに居るんだ!?」
地に足がつかない状態のまま、我を忘れて、看護師に詰め寄った。
それは、必死の形相だったに違いない。
「落ち着いてください!」
困惑しながら俺をとりなす看護師。
「莉緒に心臓移植する患者の名前はっ……!」
「それは守秘義務があるのでお伝えすることは出来ません」
知っている。
ドナーとレシピエントは、お互いにその存在を知ることはできないということを。
「ここは病院です、お静かにお願いします」
看護師は強い口調で言うと、俺を置いて足早に去って行った。
なにがどうなってんだ……。
俺はその場にしゃがみ頭を抱えた。
俺だけが、ここに取り残されたようだった。



