「あっ、琉生君!」
血相を変えて走ってきたのは、莉緒の母親だった。
「……おばさん、どうしたんですか?」
着の身着のまま家から飛び出して来たような格好とその剣幕は、おばさんらしくない。
「あのね、莉緒が緊急手術をすることになったの」
「えっ?」
「脳死の患者さんが緊急で運ばれてきて……莉緒にその方の心臓をっ……」
こみ上げるものが邪魔をしたのか、おばさんはその先が言えなくなる。
よっぽど興奮しているのか、息も切れ切れだ。
脳死の患者さん……?
今日、莉緒に心臓移植がされることは知っていた。
でも、それは俺の心臓だったはずだ。
どこかで運命が変わっている。
一体どうなっているんだ。
あたりを見回せば、忙しく動き回っている人たちが、なにも知らない俺をあざ笑っているように見えた。
俺の知らないところで、何かが大きく動いている……。
言い知れない恐怖が俺を襲う。



