慌てて這うようにして、人波をかき分け近づけば。
地面に横たわっているのは、黒いロングコートを着た男性だった。
どこか既視感のあるフォルムに、心臓がばくんと音を立てた。
まさか。
そんなことがあるわけない。
ざわつく胸を押さえるようにして、もっと近づいて。
顔を見て、絶句した。
…………トー……ヤ?
フードを脱いだトーヤの顔は、まだ記憶に新しい。
見間違えたりなんてしない。
これは、トーヤだ……。
体の周りを囲むようにあふれ出る血液。コンクリートに染みるそれは、真っ黒に染まっていく。
途端に、体がガクガク震えだした。
「息はしてるか?」
「下手に動かさない方がいいぞ」
周りの大人たちが、口々に何かを言っている。
他の人にもトーヤが見えているのか?
どういうことだ?



