余命38日、きみに明日をあげる。


形よく膨らみ、いい焼き目のついたマドレーヌ。

ひとつ手に取って口へ運ぶと、

「うまい」

父さんの味だ。懐かしくて、ふいに涙があふれてきた。

しばらく店を敬遠し、意地を張って、罪がないのにお菓子も食べることを避けていた。

なのに、体はこんなにも父さんのお菓子を欲していたんだ。


***

「あら琉生君、いらっしゃい」

俺は出来立てのマドレーヌを持って、莉緒の家に来ていた。

昨日に続き、こんな時間に現れた俺を、おばさんは快く出迎えてくれた。

「こんばんは。莉緒いますか?」

「ええ、部屋にいるわよ」

玄関を大きく開き、俺に入るよう促してくれる。

莉緒が俺の家でくつろぐように、俺にとっても勝手知ったるこの家。「お邪魔します」と言って靴を脱いだ。

階段を上る自分の足が、心なしか震えてる。

なに緊張してんだよ。

自分の右足をバシッとたたいてから莉緒の部屋をノックすると、「はい」と応答があり、俺はドアを開けた。