3月上旬の昼休み。
窓際の席で本を読んでいる透瑠くんに話しかけ、隣に座った。



「それ、お菓子作りの本?」

「はい! バレンタインのお礼に、今度は別のお菓子を作ろうかと思って」

「そういや、もうすぐホワイトデーだったね」



先月のバレンタインに、透瑠くんがくれたガトーショコラ。

自分が作ったせんべいと味が釣り合っていたか心配になるくらい、めちゃめちゃ美味しかった。

お礼のお菓子を作ってくれるんなら、私も作らないと。



「ガトーショコラのお礼かぁ……何が釣り合うかな」

「お菓子に釣り合うもなにも、気持ちが込もってたら充分ですよ」

「そうだけど……透瑠くん上手いから、味の差が出そうで」

「レシピ通りに作れば大丈夫ですって! 清花さん頭いいですし!」



基本、料理は母の手伝いをするくらいで、下準備が必要な物や時間がかかる物は作ったことがない。



「頭がいいからといって、料理も得意とは限らないよ?」

「え? 苦手なんですか? 超意外」



透瑠くんは、私が頭が良くてなんでもできる人間って思ってるみたいだけど……。

実は、唯一包丁の使い方に自信がないのだ。