一礼をしてダンスを終え、少しだけ弾んだ息を整える。もう一曲と再び差し出された手に軽く首を振って、一人テーブルへと向かった。
 飲み物はと見回していると、

「やあ」

 と背中から声をかけられた。

「どうも、オルレア嬢。炭酸ありとなし、どちらがいい?」

 振り返ってみれば、落ち着いた銀地に青い刺繍のスーツに身を包んだ男性……記憶を探り当てる。

「まあエメリス様。ご無沙汰しております」

 エメリス様の手にした二つのグラスのうち、炭酸の入っている方をありがたくいただき、笑み交わす。グラスの中には淡い色合いのドリンク、照明を浴びてキラキラと煌めいて揺れる。

「覚えていてくださいましたか」
「もちろん。婚約者のお友達ですもの」
「それはどうだろう。ルーカスは友人が多いからね、僕のことを同じように思ってくれているかは分からないな」
「ふふ、彼からいただく便りにE.E.という記述は多かったですわ」

 二年前のこの会場で、まず紹介されたのがこのエメリス様だった。そばに居合わせたからというのはもちろんあるのでしょうけど、それでも最初に、というのはつまりそういうことなのだと、わたしは解釈している。

 プラチナブロンドの髪に深緑の瞳が印象的な、伯爵家の嫡男。彼に纏わる素敵な恋のエピソードをも思い出して、内心でうっとりとしてしまう。お話を伺った当時、なんてロマンティックなのだろうと思ったことをはっきりと覚えていた。恋物語のようだったんだもの。


「エヴィ! エヴェリン!」


 噂をすれば、ルーカスが小走りで駆け寄ってきた。