「それじゃあ改めてルーカスの婚約成立ってことで!」
「何を仕切ってるんだ」
「ふふ、改めておめでとうございます」
「ありがとうございます」

 余談だが、噂の発端となったエンリックとアンヌ嬢のデートへの同行、その役割を与えてきた母上の指示は意図的なものだったということが後日判明する。

 婚約者にベタ惚れのくせその立場にあぐらをかいている息子に業を煮やしていたようで、エヴェリンに想いを伝えるよう焚き付ける目的でしばらく会えないよう画策、淑女教育に便乗したという。噂が立ったことで家名に傷をつけることとなったのは両親ともに大して気にしてはいない様子ではあったが、まさかエヴェリンの方が追い詰められるとは思いもよらなかったと、母上は彼女を抱き締めて嫌いにならないでと半ば泣きながら詫びていた。

 誤解を解くため義理の母娘で社交界に出て大袈裟なくらいに仲良く振る舞うようになったことをきっかけに、本当にこれまで以上に親しい母娘になるのだから未来というものは読めないものだ。

 そうしたあれこれをしてはみても、噂はすぐには消えないだろう。私が彼女に真摯に向き合ってさえいればなんとかなる、だなんて楽観的には考えていない。それでも地道に根回しをしたりひとつひとつ訂正をして、実直に対処していくつもりだ。


「私のエヴェリン。愛しているよ」

「わたしも、お慕いしております」


 彼女を傷つけた罪は消えないが、本当の意味で気持ちの通った恋人となれた事実は私にとって何よりのことであり、もう失いかけるような失敗などしないと強く誓う。


 ――何があってもこの手だけは離さない。