本題を、今日の目的をと気持ちは焦るのに、どんどん口の中が乾いていって飲み込む唾液すら上手く分泌されないでいる。馬鹿みたいに手元のカップに口をつけおかわりまでしても、全然潤わないのは何故なのか。
 目が合ったセルジオに顔をしかめられるが、ぼんやりした様子のエヴィのぎこちなくも儚げな微笑に息が止まって……そうやってまごついているうちに、彼女が席を立ってしまった。

 セルジオの深いため息に急かされ、教室へと向かう背中を追いかける。追いかけて、名前を呼んで、振り向いた彼女は――
 紅茶色の前髪が目元を隠していたって分かる、――今にも泣き出しそうで。

「…………………………ごめん」

 その一言を絞り出すだけで、もう、逃げていく後ろ姿を捕まえる気力を失ってしまった。強引に引き止めて言い訳を並べ立てても、もう信じてはもらえないかもしれない。

「……馬鹿」

 肩を落として戻った私に全てを察したセルジオは、深々としたため息を吐いて首を振った。

「もう僕から話すし、あの子次第ではあるけど婚約破棄も覚悟しておいて」

 お手上げだと、吐き捨てるような宣告。身動きが取れなくなった自分では、もう足掻くことも無駄でしかないのかもしれない。彼女を傷つけて気付きもしなかった報いか。
 押し黙って頷くことしか出来ず、私は項垂れる。
 テーブルの天板を指先で叩く音がコツコツと鳴って、セルジオが苛立っていることが伝わってくる。

「……ルーカス。終わりにしていいんだね?」

 静かな問い掛け。三人で過ごした日々が、幼い頃からの彼女との思い出が駆け巡る。はにかんだ笑顔、繋いだやわらかな手、家では幾分強気なのに外に出ると私たちの背中に隠れ、新しいドレスを着た時にはくるりと回って見せてくれた。可愛くて愛おしい人。……終わりになんて、していいわけがない。
 立ち上がったセルジオが私の肩にこぶしを当てる。


「これで最後。もう一度だけチャンスをあげる」


 考えよう。無駄かもしれなくとも抗わなければ。彼女を失わないために。

 ――彼女が傷付いている、その意味に縋る。