「坊ちゃんが大切な人を連れて来てくれるっておっしゃってたが、お前さん、今も坊ちゃんには振り回されてんだな」
「おいポール」
「ええ、お察しの通りです」
「さあアン、奥に席を用意させたんだ。行くぞ!」

 再会を喜ぶアンヌ嬢の姿に、リックは満足気に、それでいて二人の間に割り込んでアンヌ嬢の手を攫う。そして、何度か足を運んでいるのだろう、その席とやらに手を引いて向かっていく。

 シェフとアンヌ嬢とは、エメリス家にともに勤めていた昔馴染みなのだという。支援を受け独立して店を始めたシェフとは、アンヌ嬢はどうやらそれ以来だったらしい。
 貴族の邸宅で食事を供していた腕だ、じわじわとクチコミで人気が広がり、庶民向けを冠してはいるものの貴族も知る人ぞ知るという感じでなかなか予約の取れない店になっているのだとか。
 ……なるほど、今日の予定を動かせなかったのはそれか。いつか訪れたいと話していたというアンヌ嬢の発言を叶えた形となるようだ。


 しかし、だ。それはいいとして、だ。


 個室でテーブルから椅子を引いてアンヌ嬢を着席させ、自分も続こうとしていたリックの腕を掴む。へ、と頓狂な声に構わずアンヌ嬢に「少々失礼しますね」と断りを入れると、奴を引きずって通路へと。