すでに日は暮れて、夜に沈んだ庭園は灯された明かりに浮かび上がる。
 少しばかり混乱をきたしているわたしは、ぬるい風に吹かれながら花壇で揺れる花たちをぼんやり眺めて歩く。

 花壇に植わるいくつかの植物は、もう何年もの間そこにある。昔庭師の手伝いと称して引っ掻き回して、泥だらけになりながらも最後にはルーカスと一緒に種を蒔いて、それからはその成長と花開く季節が毎年の楽しみとなった。
 そこかしこに設えられたアーチや生垣となっているのは薔薇で、時期になれば本当に華やかに庭園をにぎわせてくれる。今でもいくつかは花開いて楽しませてくれているけれど。

「今日はありがとうございます。ルーカス様がいつもお話くださるお姫様にお会いしてみたかったんです」
「そんな、お姫様だなんて……」

 隣を淑やかに歩くアンヌ様が微笑んで、だけどわたしなんて、噂に惑わされて彼を疑うような小娘でしかない。生まれが庶民だなんてすっかり貴婦人が板について見えるアンヌ様こそお姫様に似つかわしくて、わたしは優しい言葉をかけていただくに相応しくない。
 一人で勘違いして、誤解して、噂に振り回されて、彼を振り回して、青くなればいいのか赤くなればいいのか分からずに、ただ居た堪れずに肩を縮める。

「しばらくデートも出来ていないと伺いました。当家の問題にルーカス様を巻き込んでしまった私たちのせいもあるかと思いますので、エヴェリン様には無用な心労をおかけしたこと、申し訳ございませんでした」

 すっと伸びた背中で腰を折り頭を下げるアンヌ様に動揺する。
 彼女はただエメリス様の隣に立つべく努力をしていただけで、エメリス様も同様。そしてルーカスもそれに協力していたに過ぎない。誰も何も悪くは無い。