ルーカスとの出会いは物心つくより前のこと。

 わたしの両親と彼の両親、四人ともが学園でのクラスメイトだったのだという。その縁から両家は親しく、子供が結婚したら素敵だね、なんて、最初に言い出したのはどうやらお母様だったみたいだけど、そんな軽さでわたしは誕生とほとんど同時に婚約を定められたらしい。

 当事者であるわたしたちはといえば、兄妹のように育った。領地は離れているけれど、王都にいる間はいつも一緒に過ごした。お兄様とルーカスを取り合ったり、ルーカスとお兄様を取り合ったり。大抵は年少のわたしを甘やかしてくれて、振り返ってみると二人にはとても大切にされていたのだなと思える。


「ぼくのエヴィ」


 まだ自分たちの立場も関係も、ちゃんと理解していないままに、彼はそんな風に呼んで笑っていた。


「ルーカスおにいさま」


 学園に入った彼は友達も増えて世界を広げたはずなのに、変わらず優しい兄様でいてくれた。
 お互いに好きな相手が出来たら解消してもいいよと話す親の言葉に、初恋もまだだったわたしはピンと来ず、彼もそのようだったから、ああこのまま結婚しそうだなと漠然と考えていた。

 今にして思えば、未だに婚約が継続されているのは、ただ彼が優しいからに他ならない。

 恋すら知らない妹を守るため。彼に得などない。強いて挙げるなら面倒な求婚者避けといったところかもしれない。伯爵家の跡取りで、本人も見目よく優秀とくれば、婚約者の一人でもいなければ縁談は途切れることがなかっただろう。いてもなお、月に数件はあると言うのだから。





 手紙を手にしたまま幼い頃を思い返して、ため息が落ちた。
 春休みが終わる。手紙は日々届き続けるものの、彼とは会わないまま――。