「こちら婚約者のエヴェリン・オルレア嬢です」



 そう言って微笑むルーカス兄様はとても大人びて見えて、わたしやお兄様と過ごす時とは全然違う顔をしていた。

 隣に立つことに誇らしい気持ちが胸に満ちて、同時に寂しいような切ないような気分に陥る。きらびやかな会場に気圧され、紹介に促されるまま会釈を繰り返すしかできないわたしは、まだまだ子供でしかない。

 親同士の冗談半分みたいな口約束をきっかけに婚約したのは、わたしが生まれて間もなくのことだと聞いている。どうしたって先に大人になるルーカス兄様は、そんな親のお遊びなんていい加減反故にしたっておかしくないのに、今も維持したままの関係は彼の優しさゆえのこと。

 パーティーに初めて揃って出席して、ようやく同じ場所に立てたと思っていたのに。
 それもただ、学園での生活がもうじき三年目に入るわたしが、そろそろ交友関係を広げるために上級生も交えた社交の場に出ることになるから、これから先戸惑わないよう手ほどきをしてくれるつもりなのだろう。
 追いつくことのない年齢差分の距離が、なんだかとてももどかしい。


「おいで、エヴィ」


 差し伸べられた手と、細くやわらかくなる緑青色の眼差し。
 政略結婚の珍しくない中で、この手を取れることはきっと、とんでもなく幸せなことなんだと思った。恋とか愛が分からなくても。