傷んだ壁の隙間から漏れて見える光だけを頼りに、時間が流れていることを知る。
 外を覗いても木々が見えるばかりだし、仮に特徴的な何かがあったとしても、さして出歩くことのなかった令嬢には現在地など分かるはずもない。

 最初は何も見えない闇でしかなかった部屋は、徐々に目が慣れ、ある程度自由に歩き回れるような状態にまでなった。
 とはいえ、与えられているのは水瓶の水のみ。食事を与えられることもなく、唯一の水さえ置いてあるきりで入れ替えられもしない。

 そんな状態では立ち上がるのも億劫になり、動くのは排泄時くらいなもの。
 しかしそれがまた臭う。自分の体内から出たものとはいっても、回収しにくる気配のない男たち、閉じられたままの空間、時間が経つにつれ澱んでいた空気はますます濁り、吐き気を催す。
 思考力はもはや限りなく低下し、意識は常に朦朧と、ぐったり気を失っては目を覚まして、時々えずいて喉が焼ける。

 たまにどこかで男たちが喚いているのが聞こえていた。
 帰すと言ったあの男は、閉ざされたドアの向こうにいるのだろうか。帰してもらえないということは、両親が交渉に応じていないということか。
 殺すつもりはないと言っていた。それでも生きて帰すとは言っていなかったかもしれない。


 夢で――

 夢で、大きな罪をおかした。本当はあれが現実で、平和に暮らしていた日々こそが夢だったのかもしれない。今はその報いを受けているのか。
 ……ああ、そうかもしれない。罪をおかしたのに死んで終わらせた。それも断罪されての結果ではなく、自らの意志で終わらせたのだ。
 ならばこれは自業自得というもので、当然これより先の未来など望めるはずもない。