「手なんか洗ってどうする」
「手じゃなくて……その……」
「あ!? ああ、そういうことか。そんなら壺があんだろ」

 男は面倒そうに応じる。濁った声で吐き捨てるように言われ、思わず肩が跳ねた。
 どうやら外に出してはくれないらしい。小さな子供なのだからと甘く見てくれれば、少しは新鮮な空気くらい吸えたのに。どうせ脱出など出来ないと考えるからこそ、この埃っぽい部屋から逃れたかった。

「……暗くて見えません」
「手探りでどうにかしろ」

 とりあえず直面する問題は壺だった。昔はそういったものに溜めて捨てていたという話を聞いたことがないではない。しかしレイチェルにとっては未知の行為。
 それでも背に腹はかえられない、その場で垂れ流せと言われないだけマシかもしれないと自分に言い聞かせる。

「あーそうそう、置いてある片方は水瓶な。大事に飲めよ」

 背後を振り向いてみても、広ささえ分からない暗い部屋だ、どこにそれらがあるのか見て取れるはずもない。男はそれ以上相手をするつもりはないようで、レイチェルは恐る恐る室内を歩んでみる。
 おざなりでも排泄用の容器と水を用意するあたり、殺すつもりはない、という言葉はその通りなのだろうか。