――――たすけて。

 死にたくない。そう叫んで、涙の熱さで意識を取り戻す。
 辺りは暗く、淀んだ空気を吸い込んで咳き込み、レイチェルは監禁されていることを思い出した。
 いつの間にか床に転がされている。夢と現実がぐちゃぐちゃになって記憶が混乱してはいるが、気を失う前は椅子に縛り付けられていたはずだった。身体が痛いのは固定されていたからか、床に倒れていたからか、どちらのせいだろう。どちらであっても何も変わらないけれど。

 不自然に痛む身体を起こして、周囲を見回す。
 壁の隙間からだろう漏れて見えていた光も今はなく、だからといって夜と判断していいものか。どれくらいの時間が経ったのか、犯人の要求に両親はやはり応じないのか、状況は何もわからない。

 意識してゆっくりとため息を吐き出す。
 夢うつつに泣き叫んでしまったせいで喉が痛む。咳払いをしてみても痛みは変わらない。水が欲しかった。

「おい、なんか言ったか!?」

 ドアか壁か、乱暴に叩く音とともに響くのはダミ声。先ほどの男のものとは違う気がする。

「……あの、お手洗いに行きたいんですけど」

 レイチェルは身体の重だるさを堪えて音がした方向に近寄り、壁に手を当てて掠れた声で申し出た。
 あわよくば一時的にでもこの部屋を出られるかもしれないと、そんな考えもあったが、主張は決して嘘ではない。恐怖と絶望のあまり感じていなかったものの、下腹部は限界が近いことを訴えている。
 いっそ死んでしまえばとも思うのに、生理現象というのは切実な問題だった。