ビアットは妹を探して辿り着いた地の惨状に、呆然と目を見開き、項垂れ膝をついた。
 変わり果てた地上の一部などどうでもいい。大地が抉れようが、木々が枯れ果てようが、そんなことは。


「……エルザ、」


 彼女の気配が、消滅した――。


 何度となくローディムを抜け出して、それでも毎度きちんと帰ってきていたから、悪戯な顔をして、心底から楽しそうな表情を浮かべていたから、見逃していた。
 なぜ、見逃してしまったのか。妹が可愛いなら、泣かせてしまったとしても嫌われたとしても、繋ぎ止めておけばよかった。繋ぎ止めておかなければならなかった。
 胸騒ぎに堪えきれず迎えに来て突きつけられた現実に、ビアットは悲嘆にくれる。


「エルザ、私の可愛い妹……」


 悪魔は悪魔らしく、光なんて知らなければよかったのに。
 光に憧れたりせず、闇の中で静かに暮らしていればよかったのに。

 天使なんていなければ、人間なんていなければ、妹を失わずに済んだのに。

 跡形もなく消し飛んだ悪魔と天使の残滓を感じ取り、今更後悔しても遅い事柄ばかり頭を駆け巡る。思い起こされる妹と二人過ごした過去。もう戻らない日々。
 これから先もきっと、ビアットは悲嘆と虚無を繰り返しながら生きるしかないのだろう。


『これがあたしの愛し方だったのよ』


 風にのり、微かに声が聞こえた気がした。
 すべては彼女の、彼らの、愛、だったというのか。

 残されたのは、人間の少女の魂を失った身体。そして、その懐から転がり落ちた、小さな石。
 悪魔と、天使と、人間の、魂が交じり合い、不思議な力を宿すこととなった、悲しくも美しい――