「ねぇお姉さま。ビアット姉さま。あたし、光の中へ出てみたいわ」


 夕焼け色の瞳を煌めかせた妹の言葉に、姉はその小さな身体を抱き寄せて頭を撫でる。
 親らしい親もいない寄る辺ない二人だったが、それでも互いに姉妹として助け合って生きてきた。いつだって二人で、なんだって二人で。姉は妹を守り、妹は姉を支えて。

「何を言っているの。あなたなんかが外へ出て何をしようと言うの」
「何もしないわ。ただ出てみたいの。それだけよ」

 頭を撫でるその手が窘めていることも、やさしく諭す声音に含まれる困惑も、彼女はきちんと分かっていた。それでも二つ結びの黒髪を跳ねさせて、にこりと笑う。姉が自分に甘いこともまた、しっかりと理解していた。

 天ではなく、地上でもなく。深い深い奥底に広がる世界ローディム。もちろん、人間は来ることが出来ないどころか、その存在すら知らない。
 悪魔の少女エルザは、闇ばかりに支配された世界に縛られることに飽き、光に憧れるようになっていた。右を見ても左を見ても広がるのは暗闇で、朝も夜もなく枯れた草木に囲まれ陰鬱でありながら安穏とした日々を過ごすばかり。好奇心の芽生えた心には、ここはあまりに味気なかったのだ。


 最初はただ、外へ出たいと、そう思っていただけ。