「大好きだよ。」


 と、告げた声は届いただろうか。セルフィルはこぼれ落ちる涙をそのまま、ふらりとよろめいてその場に蹲る。

 事を起こそうと決めてどうにか実行したというのに、自分で突き落とした友人の手を取ろうと思わず手を伸ばしかけた。いけないと両手を握り合わせて堪えたが、終わらせた今となっても動悸がおさまらない。
 震えながら呼吸を繰り返す。大丈夫、大丈夫だ。全部計画した通り、上手くいった。これでミアシェルはヴァリオルを失って生きる苦しみから解放されるはずなのだから。


「馬鹿なことを」


 不意に降り下りてきた声に息を飲む。背後を振り返り、眩さに目がくらみながらひれ伏す。女神だ。その目を盗んで事を起こしただけに、ここにいるはずもない存在の出現に動揺して頭が上げられない。

「片翼を切り取り地上に落としたところで、堕天使になどなれはしないというのに」
「女神さま……!」

 続けられた言葉に顔を弾き上げたセルフィルは、目の前が真っ暗になった思いで顔を歪ませた。
 追放されたヴァリオルと同様の手順を追えば、同じようにミアシェルを堕とせるのではという考えが打ち砕かれてしまった。揃って堕天使となったなら地上で再会し、改めて幸せに暮らせるのではないかと。そのためならばと、腹を括って挑んだというのに……浅はかだった。

「天使セルフィル。このようなことをして、ただで済むとは思っていないでしょうね」
「…………もちろんです。私はどんな罰でも受けましょう。堕天する覚悟です。だけど……だけど二人は! ヴァリオルとミアシェルは……っ」
「堕ちたものを許すわけにはいきません。二人には堕天使としても生きられぬよう処分します」

 頭上から冷淡なほどの落ち着きをもって告げる女神に、知らず爪が膝に食い込む。友人たちを想う心が裏目に出てしまったのだと突きつけられ、血の気が引いて姿勢を保つのもやっと。
 自分のせいで彼らへの罰が重くなるなんて。どうにか二人を助けたい。その一心で、真摯に女神へと頭を垂れる。