ヴァリオルはあてもなく歩き彷徨い続けていた。
 楽園を追放され落とされた地上は、これまで知っていたそこより随分と険しく、水ひとつ見つけられない。干からびた大地に太陽は厳しく照り、飛ぶにも飛べず、ジリジリと体力が削られていく一方。

 思い出されるのは彼女の微笑みばかり。幸せだった過去、壊した自分の腕――。

 ああ、会いたい。
 脳裏に思い描いて、意識が遠のく。もつれた足で地面に倒れ込めば、起き上がる気力は既になく、横たわったまま呻いて身体を縮める。
 このまま息絶えたなら、人間のように天に召される夢を見られるだろうか。
 閉じた視界は黒々と、身体に降り注ぐ暑さとは裏腹、何も見えず何も聞こえなくなった彼を闇が蝕んで、心底から熱を奪っていくようだった。

「あらあら」

 どれくらいそうしていたのだろう。取り戻した意識で頭痛を覚える。ぐらぐらと脳が揺さぶられるようで、天地の方向も分からない。

「まあ大変。天使さまが倒れているわ。片方の翼はどうしたのかしら、残った翼も真っ白じゃなくて黒混じり。ああそれともあなたは天使さまじゃないのかしら」

 遠く近く聞こえる歌うような高い声音が不快で、どうにか瞼を押し上げる。倒れ伏していたことを思い出して、地面に手をつき身体を起こす。
 じっとりと汗で濡れた手のひらに土がまとわりついてきたが、それよりも目の前でにっこりと笑みを作る女の表情が神経に障った。

「こんにちは、天使さま。あなたに宝玉の欠片を差し上げた者です」

 漆黒の衣を摘み上げ優雅に一礼をするのは、夜を象ったような、女というにはあどけない……少女だった。
 容姿どころか気配までもがまるで違う。それでもその言葉が事実であると、粟立つ全身の感覚が告げていた。

「あの、時の、女……」