「セフィー、今日も一人か?」

 ミアシェルのもとからの帰り道、庭園のベンチで伏せていた顔に落ちた影。目線を足元から引き上げれば、友人たちの見慣れた姿。

「大丈夫か? ……って大丈夫なわけないよね」

 顔をしかめた友人たちは無遠慮に隣に腰を下ろす。
 こんな時、これまでなら真っ先にそうしていたはずの彼女はいない。当たり前だ、思い悩んでいるのは彼女で、自分は慰め励ます側なのだから。

「あんたまでどうにかなっちゃうんじゃないかって、みんな心配してんだからね」
「大丈夫よ。私はほら、どっからどう見ても元気元気、でしょ?」
「どこが。顔色悪いよ?」
「たまにはミアのことじゃなくて自分のこと考えろよ」

 それぞれにかけてくれる声は、気持ちは、とても嬉しい。だからといって、ミアシェルのことを考えないではいられない。
 二人が引き裂かれる瞬間を目の当たりにした。寝ても覚めても、あの現実を忘れることも無かったことにも出来るはずがない。
 何より、どうにかしてやれることはないかと考えていること自体、ミアシェルのためでもヴァリオルのためでもなく、自己満足でしかないのではないかと自覚している。自分はこんなにも彼らを大切に想っていると、自身を納得させたいのか――。

「あんたがあの子支えるんでしょ? 一緒に潰れちゃダメだよ」

 パンッ、と肩を叩かれて我に返る。

「……うん。ありがとね」

 向けられる眼差しにそっと微笑みで応えた。ちゃんと笑えていたか自信はない。友人たちも困ったように笑っていたから、きっと笑顔とはいえない表情になっていたに違いない。

 ミアシェルもヴァリオルも大切な友人だ。彼が何をもってして断罪されたのか知らされてはいないが、それでも友人であることは変わらないと思っている。彼女もまたそうなのだろう。天使として身に刻まれた女神への崇拝と、彼への愛情と、両立させられない想いに引き裂かれる気持ちに言葉もなく堪えて。


 何も出来ない自分があまりに歯がゆい。