「好きなんだ」
「あたしも……好き、だよ」

 震える声で、互いの胸の内に触れる。互いの瞳がとろけるように潤んだ。緊張がゆっくりとほどけ、はにかんで手を取り合えば、二人の間にはこれまで以上のあたたかさが満ちる。
 庭園を風が優しく吹き抜けて、色とりどりに咲き誇る花々が祝福するように揺れていた。

 ――始まりは、どこだったのだろう。それらしい出来事などそこかしこに転がっている。

 未来に辿り着くまでの無数の選択肢、選んだのは誰なのか、正解はあったのか、近付く未来と望んだ未来との距離はいかほどか。選び直すことなど不可能と知りつつ、誰もが振り返る。始まりさえもわからないまま。

 彼らの未来が決定づけられたのはいつだったのか。
 少なくとも想いを交わした瞬間、それがきっかけの一端であったことは確かなはずで。
 しかしそのことに気付く者はまだなかった――。