「うん。昔みたいに酷いことは言われなかったよ」

「そっか……」

「でも、どんな顔したらいいかわからなくて。そしたら、昔のこと思い出しちゃって……」



声がしぼんでいく彼女を見て、激しい後悔が襲ってきた。

水族館でトイレに行っておけば、こんな思いさせずに済んだのに……。


電車に乗り込むと、既に中は大勢の人でいっぱい。

なんとか空いている場所を探し、車両の隅っこに移動した。



「「…………」」



人が次々と乗ってきて掴まる物がなく、今、綿原さんに壁ドンならぬ、角ドンをしている。

帽子被ってて良かった。
これだと顔が見えないから、お互い変に気を遣わなくて済む。


と思ったのもつかの間、電車が揺れて彼女に少し寄りかかってしまった。

ピクニックの時と同じ、甘い香りが漂う。
その時と比べると、断然今日のほうが密着度が高い。

落ち着け! 心臓バクバクしてるのバレるぞ!


駅に着き、急いで外に出る。



「さっきはごめんね! 俺汗臭くなかった?」

「ううん、全然。むしろありがとう。
潰されないように守ってくれたんだよね?」

「いや、そんな……無事なら良いんだ」



良かった。普通に話せてる。



「……また二人で遊んでくれる?」



少し遠慮気味に、上目遣いでお願いされた。
ひゃーー! 可愛いーー!



「もちろん! 今度は冬休みに遊ぼっか!」

「ありがとう! 楽しみにしてるね!」



最後に見せてくれた満面の笑みを見て、改めて、「今日来て良かった」と心の底から思った。