譲れない感情に反して結局は無力な自分。葛藤をしながら日々を過ごす僕のそばで、アンは母様指示のもと、その日その時のためにと準備を進めていく。

 いつも通りのお仕着せでいいじゃないか、不貞腐れた気分もあってそう思っていたのに、母様の見立てはさすがで、彼女の魅力を引き立てる色形に素材にと選び抜かれて用意されたドレスは、しっかり者の世話係を立派な淑女へと変えてみせた。知らない者が見たなら、どこかの貴族の令嬢と聞かされたところで疑うことはないだろう。

 ありのままのアンこそが魅力的なのだと知っているのに、使用人たちの手により強引に試着させられた姿に思わず惚けてしまった。
 当の本人がほとんど無表情なくらいの顔をしているのは、乗り気ではないからだと思いたいけど、母様の選ぶ相手だ、気に入られてしまえば最後……アンの意思なんてきっと聞き入れてはもらえないんだろうと、まだ子供でしかない僕にも分かっていた。

 子供にとって親の言うことは絶対。僕が何を思おうが、今回の件は母様が決めたこと、口を出すことは許されていない。
 僕のためじゃなく他の男のために綺麗になっていく彼女を、ただ見ているしかないなんて。


 ため息が、重い。