遅めの朝食を――と言っても少しばかり遅いだけで、まだ全然昼と兼用にするほどでもない――ダイニングルームでとる。家族は当たり前に先に済ませているから、僕一人のテーブルは広いばかりでつまらない。

 ちら、とそばに控えてくれているアンを見る。いつものすまし顔。
 彼女が一緒に席についてくれたりしてもいいのに……なんて考えたりもするけど、昔にそんな駄々をこねて失敗したことがあるから、今はもう無茶なわがままは言わないようにしている。困り顔も悪くないけど、本気で困らせるのは本望じゃない。

「……今日もアンのお茶は渋いな」

 朝食が終われば、待ちに待った食後のティータイム。
 お茶を淹れ、この時間に限り指定席となっている隣の席に腰かけたアンは、自分のカップを傾けつつ、僕のにやっと笑いながらの言葉にため息を吐く。

「そうおっしゃるなら、そろそろこの習慣はおやめになりませんか?」
「何を言うんだ。この渋さあってこそ、食事後の口がサッパリするんじゃないか」
「それはようございました」

 食事中は話しかけても集中してくださいと一言で切って捨ててくるけど、ティータイムならくつろぐ時間だという認識なのか相手になってくれる。まあそれも、そうするよう僕に命じられて仕方なくってところなのかもしれないけどね。

 伯爵家の一人息子が平民出の世話係と親しく言葉を交わすなんて褒められたことじゃないだろうけど、知ったことじゃない。幼い頃に虚弱だったこともあって友達が少ない僕にとっては、仕事だ社交界だと不在がちな両親よりも使用人こそが身近な存在だったんだから。