適当に食事を済ませたあと、部屋まで送ってくれた桐島さんは、陸が二泊三日の出張で不在だと知ると入るのをためらった。

理由は、恋人という関係になった今ふたりきりになったら何をするかわからないから……ということだったけれど、今までの桐島さんを見ている限り、抵抗する私に襲い掛かってくるとも思えなかったので、やや強引に上がってもらった。

このまま別れるのが少し寂しく思ったから……というのは私だけの内緒だ。

それでも、私の部屋でふたりきりというのはどうかと思ったので、いつかのようにリビングのテーブル前に座ってもらった。

コーヒーを飲みながら、酒井部長との件の真相を話すと、桐島さんは「少し気を付けた方がいいかもしれない」と難しい顔をして言った。

どうやら、紗江子の言うとおりの問題人物らしく、桐島さんもよくない話はよく耳にしているという。

「今のうちのシステム上、融資管理部は、顧客と上層部との板挟みになるストレスのたまる部署なんだよ。だから、今まで融資管理部の部長に就いたのが原因で精神的に崩れて今も復帰できていない人すらいる。でも、酒井部長はそんな気配も見せない上、仕事もできるから上はかなり重宝していて、そのせいでセクハラの基準が他より甘い傾向にあるのは確かなんだ」

桐島さんは落ち着いた口調で教えてくれた。

「でも、見逃すにもさすがに限度があるし、今の社会の流れもあって、人事部も動いてはいる。酒井部長ひとりのために内部告発なんかが起きたらそれこそ問題だからね。……でも、酒井部長本人にも注意はしているって話なのに未だにそんなに軽率な発言をしているのは驚いたな」