「やなくん、千瀬さんが来るって」

「え?あ、じゃあ姉ちゃんの事?」

 さすがやなくん、弟だから鋭いね。

「うん……」

 でも、千瀬さんからの声色からして、なにかよくない事があったと言うのがわかった。

 ……心配……。

「なに落ち込んでんの?可愛いけど、困るんですけど」

「っ……」

 やなくんの言葉は、人一倍、いや、人2倍甘く感じる。


「じゃあそれまでイチャイチャしよ?」

「ええっ!?」

 ムギュッと抱きしめられて、頬を突かれる。

「や、やなくんっ……!」

 強引にキスされたりして、窒息死寸前……!

「やなっ……んっ……息でき……んんっ」

 プハッとキスするのをやめたやなくん。

「なぁに?ドキドキし過ぎた?」

「ううっ……甘いよ……」

「いーでしょ」

 い、いいけど、程々にしてくれないと……。

「ほ、程々にっ……」

「はっ?こんなに可愛い乃ノがいて、甘々を程々にする方が難しいでしょ?なに?わかっててなの?煽り?」

「ち、違うよっ……?」

「っ……」

 煽ってなんてないし、全部本心。

「はぁ……はいはい」

「……?」

「そんな可愛い顔しないで」

「えっ……?し、してないよ?」

「嘘この無自覚」

 可愛いって言ってくれて、嬉しいけど、お世辞にしか聞こえない。


「えへっ。ありがと」

「……っ」



 そんなこんなでラブラブ?してたら、千瀬さんが家に来た。

「どうしたんですか?」

「結輝の事で、浮気されてるかもしれないんだ……」

「は?あのバカ姉は一度ハマったら出ないんで大丈夫ですよ?」

 あはは……。結輝ちゃんをバカにしてんのか、慰めてるのか……。


「ま、まぁ、玄関だと話しにくいので、上がってください!」

「ありがとう……」



 本当に元気ないな……。


 千瀬さんをソファに座らせて、反対側に私とやなくんが座る。

「家に帰ったら、結輝が知らない高校生に抱きしめられてたんだ」

「えっ?」
「はっ?」

 私とやなくんは、同時に声を上げた。

「ほ、本当ですか!?」

「ああ……」


 切ない悲しげな声の千瀬さんを見ていると、胸が痛む。


「どうして?姉ちゃんからやったんですか?」

「わからないが、多分それはない」

「じゃー浮気じゃないですよね?」

 そうだよね!やなくんの意見に大賛成!!

「でも、結輝抵抗してなかったし……」

 うっ……で、でも、

「抵抗できないぐらい力が強かったんじゃないですかっ……?」

 不安になって、恐る恐る千瀬さんにそう聞く。

「……それも考えたが、相手は大分チビだったから、多少の抵抗はできるんじゃないかと……」


 そう……だったんだ……。


 でも、千瀬さんといて、あんなに幸せそうな顔をしていた結輝ちゃんが、まさかそんなはずはない。

「信じないんですか……?自分の愛しい人を……」

「……余裕がないんだ」

 千瀬さんは、初めて弱音を吐いた。

「どういう……?」

「結輝が、可愛過ぎるから、周りの目を塞いで、塞ぎまくって不安で……」

 あはは……。

「うゎぁーないわーそんな弱いヤツがお儀兄さんなんて嫌なんですけど〜ってか、千瀬さん思ってないでしょ?」

 え……?

「ははっ。よくわかったなぁ。—————こう言う事だよ」

「ちょ!千瀬さん、心配して損したんですけど!?」

「すいませんねぇ」


 と言うか、見破れたやなくんがすごい。


「まぁ、程々にしてあげてくださいね!結輝ちゃんが可哀想なんで」

「はーい」


 ったく。千瀬さんったら、意地悪なんだから。



 けど、話を聞いて私はとても安心をした。