「でもどうしてアイドルなんだ? かわいいから?」

「っ!」
 かわいいとか、普通に言わないでほしい。

「あ、うん。それもあるんだけど……」
「うちの家庭科部って調理実習もたまにあるけれど、ほとんど裁縫や手芸とかがメインなの」
「で、何かものを作ろうと思ったときそうびをイメージするとはかどるのよ」

 都先輩に続き、他の先輩たちも口々に話し出す。

「だから部員みんなで萩原を飾り立てちゃってさあ。去年の文化祭なんてドレス作って着せたのよ」
 だからアイドルなの、と締めくくる。


 なんだか居た堪れない。
 かわいいって言って可愛がられるのは純粋に嬉しいけれど、変に特別扱いされている気もして素直に喜べない。

 だから尚更アイドルとか言われるのは嫌なんだけど……。
 先輩達の様子を見ると今年いっぱいは訂正できそうも無い。

 これは来年に()けるしか無いかぁ。


 そんな(あきら)めと共にため息をつくと、何かを考える風だった上原先輩が突然声を上げた。

「うん、俺部活ここに決めた。何か楽しそうだし」

『え?』

 みんなの声が重なった。
 多分考えてる事も同じだと思う。

 見学に来ているんだから興味があるのは確かだろうけど、まさかそのまま入部を決めるとは思っていなかった。
 運動神経が良いと聞いていたし、見た感じもまさにスポーツマン。

 絶対運動部に入ると思っていた。

 みんなの驚き様を見ても同じ様に思っていたんだと思う。


「えっと、希望するなら勿論良いんだけど……。聞いても良いかな? 何で家庭科部に? 淳君は運動部に入ると思ったんだけど」
 代表して都先輩が聞いてくれる。

「あー、やっぱそう見える? まあ、体動かすのは好きなんだけどちょっと身内に運動部はやめとけって言われててさ……」

 どんな理由があるのかは知らないけど、運動部はやめとけとか身内に口出される事? しかもそれに(したが)う必要ある?


 納得いかない、と不満に思う。
 見ず知らずのその身内とやらにも若干怒りを感じる。

 でも、続いた上原先輩の言葉で怒りなんて霧散(むさん)した。


「それにこんなかわいい子がいるなら部活動にもやる気出るし、料理とか出来る方がモテるだろ?」

 しごく真面目にそんな事を言った上原先輩に、みんなで呆れる。


 イケメンで王子様候補とか言われてるかも知れないけれど、何だろうこの残念感。
 脱力してしまう。

 ともあれ、こうして話題の転校生王子様候補はうちの家庭科部に入部することになった。


 あと、さっきの残念感は気のせいなどでは無く、他にも実はお化けとか怖かったり頭は悪く無いのに何故かバカっぽく見えてしまう(ふし)があるなど、残念な感じだという事が後々分かり、彼は残念王子と言われる様になる。

 ただそれは、もう少し先の話。