それでもこんな所で頬チューするとか恥ずかしい事に変わりはない。

 誰にも見られていないといいな、と思いながら皓也の様子を見る。
「これじゃあ、ダメ?」
 消え入りそうな声で聞いてみた。

 軽く驚いたように目を開くと、皓也は口元を片手で覆った。

「あー。も、可愛い……」

 そんな呟きが手の隙間から聞こえてきたと思ったら今度はわたしが頬チューされた。
 しかもかなり唇に近い位置に。

「なっ! 皓也、ちょっ!?」
 言葉にならないけれど抗議の声を上げる。


 キスしてって言ったのは皓也でしょう?
 なんで『して』って言った人がキスするのよ!?


 そんな言いたい言葉は音にならずに消えてしまった。
 唇に、皓也の人差し指が触れたから。

 そして囁くように告げられる。


「ここには、あとでな」
 色気さえ(ただよ)うような笑顔で言われて、今度こそ本当に言葉が出なくなった。


 わたし、ちゃんと歩いて帰れるんだろうか?


 ふわふわする頭でそう思う。

 でも少し離れたところからキャーという黄色い声がして、一気にふわふわが吹き飛んだ。


「あ、誰か倒れたよ?」
「マジ? あーでも分かる。さっきのクール王子の笑顔ヤバかったもん」
「だよねー」
「ほら、やっぱり方針を見守りたい(隊)にして正解だったでしょ?」


 一応声は抑えようとしているんだろうか。
 でも丸聞こえだった。

 ヒソヒソ声なのにめちゃくちゃ聞こえてるんですけど!!


「……なんだよあれ、邪魔だな」
「あー、えっと。皓也のファンクラブみたいだよ?」

 そう言って簡単に、謝ってもらったことと方針のことを皓也に話した。


「……邪魔したら恨まれるって分かってんなら、もっと離れててくれればいいのにな……」
「でもさ、実害はなくなったし……?」


 ……あれ? なくなったよね?


 今現在邪魔に思ってるし、ファンクラブの子が倒れたりしてるから何も害がないとは言い切れないような気もする。


 それにもしかしてずっとあそこにいたんだろうか。
 だとしたら一部始終見られてた?

 恥ずかしい!

 と思ったのは一瞬で、次に浮かんできたのは嫉妬の気持ち。


 ずっと見ていたってことは、さっきのわたしだけに向けられた皓也の笑顔も見ていたってことだ。

 わたしだけに向けられた笑顔なのに。


 (くすぶ)る様な嫉妬心を自覚して、笑う。

 わたし、結構嫉妬深かったのかな。