「よし! 完成」

 満足いく出来に仕上がった羊毛フェルトをテーブルの上に置く。

 近くにいた子達がわたしの言葉を聞いて見に来る。

「かわいいねー」
「でもちょっとワイルドな感じ」

 などと感想を言い合っている中で、同じく見に来た淳先輩がポツリと呟く。

「……皓也に似てね?」

 そうかもしれないと心の中でだけ返事をした。


 出来上がった羊毛フェルトは狼姿の皓也に似た感じになっていた。

 最後の方は皓也をイメージしながら仕上げてしまったから尚更。


 そうしていると、部活の終了を告げるチャイムが鳴った。

 わたしはすぐに片付けをして早々に家庭科室を出る。



 あの後、皓也はそのまま家に一緒に帰って来た。


 お母さん達にはオルガさんは大丈夫だったのかとか聞かれながら週末を過ごした。
 でも松葉はわたしと皓也を見ながらニヤニヤしていたから、わたし達が両想いになった事を察してしまったのかも知れない。

 最初は恥ずかしいのもあって気にしない様にしていたんだけど、段々ムカついてきたのでちょっとお仕置きしておいた。

 松葉の恥ずかしい過去を並べ立ててやって、バラしちゃおうかなって(おど)したら半泣きで謝ってきた。

 お姉ちゃんは怖いんだよ。


 そんな感じで迎えた今日の月曜日。

 いつもとはちょっと違って、皓也と一緒に歩いた。

 特に何かを話すわけじゃないけど、隣に皓也がいるってだけで嬉しい。


 帰りも一緒に帰る約束をして、それぞれの教室に向かった。


 優香にだけは皓也と両想いになって付き合いはじめた事を話す。

「そっか、良かったね。おめでとう」
 祝福の言葉を送ってくれる優香は、そのまま「でも」と続ける。

「何か、今更って感じもするけど」
「……それは言わないで」

 加野さんの噂のおかげで、休み明けにはすっかり公認カップル認定されてる感じになっていた。


 実際に付き合い始めてから周りに色々言われなくて済むのは良いけれど、素直に感謝はしづらい。

 そんな加野さんは今日も今日とて元気に情報収集でもしてるのか、他のクラスを飛び回っている。



 先週の一週間は何だったんだろうってくらい平和な一日を過ごして、部活も終えた。

 やっと皓也に会えると思うとスキップでもしたくなる。
 今朝別れたばかりなのに、もう恋しく思ってしまう。


「萩原さん、早いね。さっきチャイムが鳴ったばかりなのに」
 途中で安藤先生に会った。

 安藤先生と淳先輩はこのまま皓也の監視――というより今は見守りに近い――を続けるらしい。

 無事に人の姿に戻れたとは言えまた狼の姿になることはあるだろうし、その時にすぐ戻れるかは分からない。
 それに皓也の先祖返りは珍しいから、何らかの理由で狙われる可能性もあるからだそうだ。


 皓也が狙われるとなったら味方は多い方がいい。
 わたしも出来ることなら頑張るけど、戦うことは出来ないから。

 だからわたしは安藤先生と淳先輩がいることは大歓迎だ。


 でも皓也は淳先輩にだけは守られたくないと思ってるみたい。

 わたしにちょっかい出してたから嫌いだとか言っていたけど、大本(おおもと)の部分で性格が合わないってのが一番なんじゃないかな、とわたしは思っている。