「って、え? 皓也も知らなかったの?」
 それまで言葉も出なかったのに、純粋な驚きに声が出る。


 わたしの疑問に答えたのは月原さんだった。

「皓也には赤ん坊の時以外会ってはいなかったからなぁ。分からなくても無理はない」
 そう言って皓也を見る目は、完全に孫を思う祖父の顔だ。

「月原の家は強いヴァンパイアを求めすぎて暴走してしまった。近親婚を繰り返して……結果、そのツケがわしの息子に集まってしまったのだ。長くは生きられないと生まれた時から言われ、子も望めないと思っていた。……だからオルガには感謝しているよ」

 泣きそうな顔で、ううん。実際に目に涙を浮かべながら月原さんは皓也を見ていた。

「こんな丈夫な孫を産んでくれて。あの子の息子を産んでくれて……。だが、だからこそ月原の家があまり関わってはいかんと思った」

 だからずっと会わなかったんだと月原さんは言う。


 皓也を見ると、明らかに戸惑っていてどうしたらいいのか分からないといった様子だ。

 そりゃそうだよね。
 突然現れて祖父だと言われても困る。
 しかもさっきとのギャップがひどすぎる。

 でも月原さんの孫を思う気持ちは今の話だけでも伝わって来た。
 それに、皓也も応えたいと思っているんじゃないかな?


 それでも何と言えばいいのか分からないと言った様子の皓也。

 月原さんはそんな皓也を優しく見ると、視線をわたしに移した。

「お嬢さんにも悪いことをしたな、こんなことに巻き込んでしまって。だが皓也を好きだと言ってくれて嬉しかったよ。思わず顔が緩みそうになってしまった」
「!!」

 なんてことをサラリと言ってくれるんだこのお爺さんは!?

 確かに言った。
 でもあの緊迫(きんぱく)した状態だから言えたってのも大きい。

 だから今のこの和やかな雰囲気の中でそんなことを言われたら恥ずかしさしかない。

 それに、皓也の反応が怖くて見れない。
 今は人の顔だから、さっきよりも感情が見て取りやすいから尚更。

 代わりに見えた淳先輩の顔はニヤニヤしてて確実に面白がっていた。


 こんの残念淳先輩め!


 腹が立つけど、恥ずかしいのは変わらない。


 そんなわたしと皓也に、安藤先生が提案する。

「まあ、取りあえず向こうにコテージがあるからそこで少し落ち着いておいで。皓也くんもその格好のままだと寒いだろう? 着替えを用意しているから着替えておくと良い」

 言われて確かにと思う。
 まだ春だし、シャツ一枚じゃあ寒いだろう。狼の時はモフモフだから大丈夫だったかも知れないけど。

 それにわたしも少し座って休みたい。
 色々あって疲れたし、人の少ないところでちょっと落ち着きたかった。


 わたしと皓也は、淳先輩の「俺だって疲れてるのに!」と文句を言いながら片付けに駆り出されている様子を尻目にコテージへ向かった。