絶望を感じて落ちたと思ったら、皓也が目の前に飛び込んできた。

 手を伸ばす。

 皓也の必死そうな紺碧の目が見えた。


 伸ばされた皓也の前足が、人の手になっていく。

 ふわふわな毛に覆われた顔が、人の形になっていく。

 尻尾もなくなって完全に人に戻ったとき、皓也の手を掴めた。


 そのまま力強く引かれ、彼の腕の中に閉じ込められる。

 守る様に頭も抱え込まれ、強く抱きしめられた。


 そのことに、こんな時なのに嬉しいと思ってしまう。

 皓也と一緒なら、大丈夫だと何故か思えてしまった。



 それでもそのまま落ちていく。

 逆さまに二人で落ちていき、頭の上に木のてっぺんが近付いたころ。


 ん? 何か足に違和感が……?


 ぐぐぐっと引っ張られるような感覚があった。

 何が? と思った次の瞬間には、引っ張られるままにポーンと跳んだ。

 跳んだ瞬間にちらっと見えた足元には太めの(ひも)の様なものがついた器具がつけられていた。

 いつの間に? と思っているうちにまた落ちて、またポーンと跳ねる。
 それを何度も繰り返しているうちに気付く。


 あ、これバンジージャンプだ。


 やったことは無いけれど、テレビなどで見た事のある状態にそう結論づける。

 何度も跳ねて、やっと止まると少しずつ下に降ろされた。
 下にはクッションになる様なマットもあり、その上にゆっくり降ろされる。

 マットの周りには知らない人達が何人もいて、「良かったー戻れて」などと言って盛り上がっている。


 状況が掴めなくて皓也を見たけれど、皓也もわたしと同じなのか困惑した顔をしていた。


 そうしているうちに周囲にいた人達が近付いてきて足の器具を取ってくれる。
 手伝ってもらいながらマットから降りると、笑顔の安藤先生とふてくされた様子の淳先輩に出迎えられた。