しばらく走って、「いたぞ!」と声が聞こえた。

「見つかったか」

 そんな淳先輩の声が聞こえたと思ったら、彼の足が止まった。

「俺が足止めしておく。皓也達は先に進め!」

 淳先輩に合わせて止まろうとした皓也の足が、止まり切らずにまた走り出す。

 わたしが何かを言う暇もなく、淳先輩からどんどん離れていった。


 そうやって進んでいても、男たちの声が色んな所から聞こえて来る。
 それを()けるように進むと、切り立った崖に来てしまった。

 流石に皓也の足も止まる。


 もしかして、こっちに来るように誘導された?


 そんな嫌な予測を裏付けるかのように、二人の男を連れた月原さんが現れた。

「観念するんだな。皓也、その娘を殺されたくなければ大人しくこっちに来るんだ」
 そう言ってまた鋭い目を向けて来る。


「ダメ! 嘘よ。さっきはわたしを処分するとか言ってたじゃない!」
 怖かったけれど、怒りも同じくらい強かったわたしは言い返す。

「皓也は渡さない。皓也はわたしの傍にいなくちゃダメなの!」
 強気で言い返すと、月原さんの淡々とした声が質問してきた。

「……やはりお嬢さんは、皓也が好きなのかな?」
「っ! そうよ! わたしは皓也が好き! 誰にも渡さない!」

 もしこのままどうにかなって、皓也と別れることになってしまったら……。
 後悔だけはしたくない。

 そんな思いからハッキリと自分の気持ちを口にした。


 それを聞いた皓也がどう思っているのか知りたいけれど、どんな表情をしているのか怖くて見れない。
 代わりに目の前の老人を睨みつける。

 そのとき、月原さんの目元が一瞬優し気に緩んだように見えた。


 え? と疑問を感じた時には鋭い目に戻っていたので、多分気のせいだったんだろう。


「そうか。ならばやはりお前は邪魔だな。……やれ」

 月原さんのその言葉の後、何が起こったのかよく分からない。


 男達が動き出し、気付いた時にはわたしは後ろに――崖の先に飛ばされていた。

 勢いよく押されて飛ばされたんだと気付いたときには、足元に地面は無かった。
 あるのは、遠くに密集した木々の緑だけ。


 落ちる!?


 とっさに何かを掴もうとするけれど、飛ばされたため周囲にあるのは空気だけ。

 わたしはそのまま、重力に従って落ちた。