「あの人何なんですか? 突然現れたと思ったら皓也を奪うとか、わたしを処分するとか、ってか処分って何なんですか? こ、こここここ殺すって事ですか?」

 大きな声だけは出さなかったけれど、そんな風に(まく)し立ててしまった。


 口に出してから思う。
 うん、全然落ち着けてなかった。


「うん、まずは落ち着こうな」

 淳先輩にも言われてしまった。


 落ち着けるとは思えなかったけど、とりあえず一度深く深呼吸する。

「……処分とか言われて落ち着けるわけ無いじゃ無いですか」
 言いつつ、さっきよりは落ち着けたかも知れない。

「そんな事はさせないから大丈夫だって」
 何の保証もないのに淳先輩は軽く笑ってそう言った。


 軽すぎて、信頼して良いのかちょっと不安になったけど。

 でも皓也も頭を擦り付けてきて慰めてくれる。
 もふもふが心地良くて、ちょっと安心出来た。


「で、あの爺さんが何かって話だけど」
 と、淳先輩はさっきのわたしの質問に答えてくれる。


「月原家って日本で結構長く続いてるヴァンパイアの家系なんだけど、あそこの家は強いヴァンパイアを生み出す事に固執(こしつ)しててさ。皓也を欲しがってんのもそう言う理由からだろ」


 強いヴァンパイアを生み出す?
 そのために先祖返りした皓也が欲しいって事?

 ……そのためだけに?


 このときわたしは強い怒りを感じた。


「つまり血筋に取り込みたい、皓也に自分たちの一族の女をあてがって子供を残してほしいから、(そば)にいたそうびちゃんが邪魔だと思ったんじゃねぇかな?」

 続けられたその言葉にも理不尽なと思ったけど、皓也を奪うと言ったあのお爺さんへの怒りが止めどなく湧いて来る。

 さっきまで感じていた恐怖を上回る程に。


 皓也を連れていく?
 皓也がわたしの近くからいなくなる?

 そんなの、嫌。

 絶対に嫌!


 皓也への気持ちをハッキリさせたくないと思っていた。
 でも皓也が近くにいない未来なんて想像していなかった。

 こんなにも拒絶したいと思う未来だったなんて。


 気まずくなるのが嫌だとか、そんなことどうだっていい。


 わたしは皓也が好き。
 誰にも奪われたくない!!


 そうハッキリと決意したとき、淳先輩が警戒を口にする。

「そろそろ移動するぞ。好人の足止めも全員は無理だろうからな」


 そうしてまたわたしは皓也に乗って移動を始めた。

 自分で走るよ、と言ったけど皓也に問答無用で乗せられちゃったし、淳先輩にわたしじゃ付いてこれないなんて言われちゃったから。

 実際、今度もまたわたしは皓也にしがみつくのが精一杯だった。