理解はしたけれど、納得は出来ない。
 というより、実感がわかない。

 特別な血だと言われても、そうだという証拠がハッキリある訳でもないし。
 しかも名前のせいにされても、という気分だ。


 依頼の詳細を話してもらっても何だかモヤモヤして納得出来ないでいると……。

「まあ、皓也くんがああなったのはそれだけが原因じゃないけどね」
 と、ポツリと言われた。

「え?」
 わたしに伝えるために言ったというより、ついこぼれてしまった独り言みたいだったから聞き逃すところだった。

「他にも原因があるんですか?」
 もっと理解しやすい理由があるんじゃないかと聞き返す。
 でも安藤先生は困った様な笑顔を見せた。

「うーん。それを僕の口から言うのは野暮(やぼ)ってやつじゃないかな?」

 良く分からないけど、とにかく話してくれるつもりがないことだけは分かった。


「そうそう、それで皓也くんが人に戻る方法だけどね」
 そのまま次の話題に変えられる。

 これ以上聞いても答えてはくれないんだろうし、皓也が人間の姿に戻る方法があるなら知りたいので黙って続きを待った。


「結果から言うと、何もわからなかったよ」
「………………はい?」

 期待させておいて分からないとはどういうことか。
 安藤先生が運転中じゃなかったら詰め寄っていたところだ。


「大体資料が少なすぎるんだ。今みたいな体制になってまだ百数十年程度だし、その前はいちいちヴァンパイアの記録なんて取ってなかったからね。ヴァンパイア側の方にもしっかりした資料はほとんどなくて……ってか自分たちの事くらいもう少し把握(はあく)しておけよって思ったよ」
「……」

 何か、愚痴(ぐち)られた?
 しかも最後の方ちょっと黒い笑みが見えたような……。

 いや、気のせいだ。きっと。
 見なかったことにしよう。


 そう思ってわたしは安藤先生から少し目を()らした。

 そんなわたしを気にも留めず、安藤先生は「ああ、でも」と続ける。

「皓也くんが狼に変身したのはやっぱり先祖返りだったみたいだよ。二百年ほど前に先祖返りで蝙蝠(こうもり)に変身したヴァンパイアの話があったし、古代の資料を書き写したものに昔のヴァンパイアは狼にも変身していたと記述(きじゅつ)があったしね」
「二百年前……」

 それ、信用していい情報なのかなぁ?
 安藤先生の話を総合すると、その二百年前の話ですらちゃんとした記録じゃないってことになるけど……。

 いや、この際先祖返りかどうかなんてどっちでもいいんだ。
 肝心なのは、皓也がもとに戻れるかってことだよ。


「それで、どうするんですか? どうすれば皓也をもとに戻せるんですか?」
 何も分からなかったからと言って、何もしないなんて選択はないはずだ。
 そう思って何かやれることはないのかと聞くと。

「ヴァンパイアも交えてハンター協会の方で話し合ってみて、一応いくつかやってみようという事になったものがあるんだけど……それは皓也くんのところに着いてから話すよ」
 と言われて、後はこの二日間の皓也の様子などを聞きながら目的地に着くまでを過ごした。