やっと土曜日が来た。

 待ちきれなくて一時間前には準備も終わって、リビングで待っていたけれどソワソワして落ち着かなかった。

 三十分前には外に出ようとして、お母さんに早すぎるでしょうと突っ込まれてしまう。


 それでも十分前には出て迎えの車を外で待っていた。

 何度も腕時計を確認して、まだ二分しか経ってないとか一分が長いとか考えながら待つ。


 そうやって二分前にそれらしき車が近づいて来た。
 運転席には安藤先生が乗っている。


「おはよう。ごめん、待たせてしまったかな?」
「いえ、大丈夫です」

 待ちきれなかったとも言えず無難(ぶなん)にそう返すと、助手席に座る様に促された。


「皓也くんの所に行くまでちょっと時間が掛かるから、知りたい事があるなら今話してしまおうか」
「はい、お願いします」

 とは言ったものの、聞きたいことが多すぎて何から聞けば良いのやら……。


 悩んでいると、安藤先生の方から話してくれた。

「そうだね。まずは最初から、オルガさんがなんで僕達に依頼したのか、からかな」

 うん、最初から話してもらうのが一番良い。
 そう思ってわたしは「はい」と返事をすると、聞き漏らさない様に静かに安藤先生の言葉を待った。


「オルガさんが僕達に依頼した理由は、自分が側にいない状態で皓也くんが暴走する可能性があったからなんだ」

 通常であれば吸血欲求が出てくるのは高校生くらい。早くても十五歳だそうだ。
 だから本来なら誰かの血を吸ったり、あんな風に変身してしまうなんて事は無いはずだった。


「じゃあどうして皓也は……」
 わたしの血を舐めたり狼に変身したりしてしまったんだろう。


「人の中にはね、ヴァンパイアにとって美味しい血を持つ特別な人達がいるんだ。その人達の血はヴァンパイアの力を強めるともいわれている」
「はぁ」

 関係ないことの様にも思えたけど、一応相槌(あいづち)を打って聞き役に(てっ)する。


「オルガさんが再婚した祐樹さんもそんな血を持つ人で、彼と血の繋がりのある君もその可能性があった。しかも名前がそうび……薔薇(ばら)だろう?」
「ええ、はい。でも名前に何の関係が?」

 それこそ分からないと疑問を言葉にした。


「名前には力が宿るって聞いたことないかな? 薔薇はヴァンパイアが特に好む花だと昔から言われている。特別な血を持って、そんな名前を持つ君が近くにいるとなれば通常より吸血欲求が早まる可能性があったんだ」

 だからオルガさんは安藤先生達に依頼した、というわけだ。