「そうびちゃん、それ学校で話すのはまずいって」

 周りに人がいないか確認しながら、淳先輩は小声でそう言った。

「詳しいことは明日話すって好人が言ってただろ?」

 そしてそっとわたしの口から手を離してくれる。


「まずいのは分かってます。でも皓也の事が心配で……戻れて無いんですよね? 様子はどうですか?」

 わたしも声を抑えて話す。

 詳しいことは明日聞く。
 でも、今皓也がどうしてるのかだけは聞きたい。


 すると淳先輩は明らかに嫌そうな顔をした。
「皓也なー。世話は俺がしてるんだけど、懐いてもこないしドッグフードやったら唸って怒るし。怖ぇだけなんだけど」
「……」


 懐くとかドッグフードとか、何か皓也を犬扱いしてない?


「あの、犬扱いしてませんか?」
 確認も込めて聞くと。

「あ、いや。皓也だって分かってはいるんだけど、あの見た目だとどうしてもなぁ」
 あはは、と笑う淳先輩。


 やっぱり犬扱いしていた。
 流石に不快な気分になる。


「そういうのやめて下さい。皓也はちゃんとした人間です」

 怒気を含ませて言った言葉に、淳先輩は驚いた表情で返した。
 そのまま固まってわたしをジッと見ている。

「……何ですか?」
「いや、目の前で狼になった所見たのにちゃんと人扱い出来るんだな、ってちょっと驚いた」

「皓也は人ですよね?」
「でもヴァンパイアだ」

 即座に返された言葉にハッとする。
 確かに、人の形をしているけど人外って事になる。


「……でも、皓也はわたしと同じ人間です」

 血を舐めても、狼に変身しても、わたしと同じ感情を持つ人間だ。
 そこは譲れないと淳先輩を睨みつける。


「ああ、そうだな。いや、ごめん。たまに本気で人外扱いするやついるからさ。俺も今はあの見た目だからつい犬扱いしちまうけど、人に戻ったらちゃんと人間扱いするよ」

 淳先輩の言葉にちょっと安心した。
 今皓也の世話をしているという先輩が、そういう人外扱いする様な人では無くて。


 でも今は犬扱いしてるってハッキリ言っちゃったね……。
 そこは……まあ、突っ込まないでおこう。


「じゃあ俺行くな。明日は九時頃好人が車で迎えに行くから」
 そう言って走り去ろうとする淳先輩をわたしは呼び止めた。


「あ、あと一つだけ!」
 あともう一つ、これもハッキリさせたかった。

「オルガさんがケガしたって本当ですか?」
 もし本当で大ケガなら心配だと身構えていたけれど、淳先輩は何でもないことの様にアッサリと答えた。


「ああ、確かにケガしたし結構な大ケガだったみたいだけど、もうほとんど治ってるみたいだぜ? 昨日痛そうにしつつ皓也の様子見に来たし」

 そう言うと淳先輩は今度こそ走って行ってしまった。


「………………は?」