まさか本当に?

 と迷うけど、すぐには信じられるわけがない。
 それくらい非現実的なことだから。


「えっと、その……」

 淳先輩の顔を見ていると、信じてあげられないことによる罪悪感が(つの)る。
 それを誤魔化すように、わたしは別の質問をした。

「じゃあ、依頼したのって誰なんですか?」

 この質問には答えてくれるとは思っていなかった。
 こういうのって、守秘義務がどうとか言ってはぐらかされるのが定番だと思ってたから。

 でも淳先輩は予想に反して答えようとしてくれる。


「ああ、依頼したのは皓也の――」

 そこで言葉が止まり、驚いた表情でわたしの後ろの方を見つめている。
 その様子に既視感(きしかん)を覚えた。

 数日前にも似た様なことがあった。
 確かあの時は皓也がいて……。

 そう思い返しながら後ろを振り返ると、記憶と同じように皓也がそこにいた。

 少し前に会った忍野君と一緒に剣道の道具を抱えているから、部活が終わって片付けをしているところなんだろう。


 こちらを睨んでくる皓也と対照的に、忍野君は「どうしたんだ? いきなり止まるなよ」と場違いにも聞こえるほど呑気な声で言っていた。
 でも皓也はそんなこと聞こえていないのか、持っていた剣道の道具を無造作に投げ捨てるとわたしに近付いて来る。

 この前と同様に、わたしの手を掴むと引っ張って歩いて行く。
 その際、「何でまたコイツといるんだよっ」と(うめ)くように呟いたのが聞こえた。


「あっ! 皓也どこ行くんだよ!? 先輩たちに怒られるぞ!?」
「っ! 待てっ! 今は駄目だ、皓也!」

 皓也を非難する忍野君の声と、(あせ)った淳先輩の声が同時に聞こえる。
 それでも皓也は足を止めなかった。
 引っ張られているわたしも止められない。

 何とか頭だけを淳先輩の方に向けると、彼はスマホを取り出して誰かに電話をしている様だった。

「ちくしょう! 今どこにいる!? 好人(よしと)!」
 そんな焦った声を最後に、淳先輩たちの姿は見えなくなった。