「……何か辛そうな様子で、ケガが治るまでは自分に近付くなって言われました」

 言葉を選んで、まずはそこを伝える。
 すると淳先輩は「やっぱりな」と溜息混じりに言った。


 やっぱり、何か知ってるんだ。


 どんなことを話してくれるのか。緊張で鼓動(こどう)が早くなってくる。
 問いただしたい気持ちを(おさ)え、(みだ)れてきた呼吸を整えながら淳先輩の言葉を待った。


「……そうだな、どこから話せばいいのか……」
 そう言って少し考え込んだ後、淳先輩は言葉を選ぶように話し出した。

「まずは、皓也がそうびちゃんに近付かないでほしいって言った理由を俺は知ってる」
 ハッキリとそう言った淳先輩は、初めて見る真剣な表情をしている。
 だから『その理由を知りたいんだ!』何て言って答えを()かすことが出来なかった。

「どこまで話していいのか俺には判断がつかねぇけど、これだけは言っといた方がいいかな」

 その言葉で、全てを話してくれるわけじゃないってことが分かって思わず眉間(みけん)にしわを寄せる。
 そうやって不満を顔前面に出したけど、次の言葉を聞くために言葉にはしなかった。


 黙っていると、淳先輩は真剣な顔のままで話してくれる。

「俺は――俺達(・・)依頼(いらい)があってこの学校に来たんだ」
「……え?」

 予想外の言葉に思考が一瞬止まる。


 依頼……って?
 俺達?


「皓也を見守る……いや、この場合監視って言った方がいいのかな。とにかく、そのために来た。だからそうびちゃんと皓也が同じ家に住んでるのも知ってるってわけ」


 いきなり過ぎて訳が分からない。
 わたしと皓也が同じ家に住んでることは、誰かから聞いたとか偶然見ちゃったとかそういう事じゃなかったの?

 依頼って何?
 誰かに皓也を監視するように依頼されたって……。


「ちょっと、待ってください。……依頼されたって、淳先輩は何者なんですか?」
 聞きたいことが沢山ありすぎる。
 混乱した頭では考えがまとまらなくて、口から最初に出たのはその質問だった。

「俺は……」
 一度言葉を切って、少し迷うようなそぶりを見せた淳先輩だったけど、結局は話してくれた。


「信じないかもしれないけど、俺はハンター。ヴァンパイアハンターだよ」
「…………」

 思考だけじゃなくて、全てが停止した。


 これは、笑うところ?
 いや、でも淳先輩は真剣だし。
 いやいや、そう見えて少ししたら『騙されただろ?』とか笑って言い出すんじゃないの?

 だって、ヴァンパイアとかいるわけないでしょ。
 だからハンターなんてものだってある訳ない。


 すべてを停止させたまま、わたしは淳先輩が笑い出すのを待った。

 そして淳先輩は笑う。
 でもそれは予想していた様な笑い方じゃなかった。

「まあ、普通は信じられねぇよな」
 諦めの笑顔。そしてその中に信じてもらえないことによる少しの悲しみが(にじ)んでいた。