何とか足を動かして家に帰って来たわたしは、力なく「ただいま……」と告げて靴を脱いだ。

 すると物音で気付いたのか、出迎えに出てくる足音が聞こえてきた。

「おかえりそうび。ケガしたって皓也くんから聞いたけど、大丈夫なの?」
「お母さん?」

 もう帰ってたの? と聞きそうになって、そういえば今日は用事があるから早く帰ってくると言っていたなと思い出す。

「ああ……大丈夫だよ。痛いけどちょっと切っちゃっただけだから。見ためほどひどくはないよ?」
 包帯まで巻いてあるが、本当なら大きめの絆創膏(ばんそうこう)でも十分だった。
 ただ、その大きめの絆創膏が今は無いという事で仕方なくこんな状態になってるだけだ。


「そう? でも、なんだか元気無さそうだけど?」
 流石はお母さんと言うべきか。
 普通にしてたつもりでも些細(ささい)な変化に気付いたみたいだ。

 でも原因を話すつもりはない。
 ケガの事を詳しく話すと皓也のせいとも取られかねないし、淳先輩についてはどう説明するべきかよく分からない。


 大体どうして知ってるのかも分からないのに、対処しようがない。
 黙っていて欲しいと頼むとしても、淳先輩だけに頼めばいいのか、淳先輩に教えた人にも頼まなきゃないのか……。

 そこまで考えてふと気づいた。


 そうだ、まずは聞いてみない事には始まらないじゃない。
 淳先輩なら、聞けば答えてくれると思うし。

 そうだよ。
 明日淳先輩にどうして知っているのか聞いてみよう。
 理由が分かればこのモヤモヤとした不安も晴れるでしょう。

 皓也のファンクラブの方はどうすればいいか分からないけど、今一番不安だった淳先輩の事は解決策が見えて来た気がする。


 困った様に考え込んでいたけど、頭が覚める様な気分になって笑顔でお母さんに答える。

「大丈夫。ちょっと困ってたけど、何とかなりそうだから」
「そう? 手に負えないと思ったらすぐに言うのよ?」
「分かった、ありがとうお母さん」

 わたしが元気になったのを見て、心配そうだったお母さんも安心したみたい。


 着替えるために2階に上がって部屋に入ろうとすると、皓也の部屋に目が行った。

 皓也の使っている部屋は、松葉が中学生になったら使う予定の部屋だ。
 小学生のうちは両親と一緒の部屋で寝るからいいだろうって事らしい。
 わたしもそうだったし。


 そういえば皓也、大丈夫かな。

 わたしのケガを見たときの反応がおかしかった。
 心配とか痛々しいって言うのとは違った。

 ……ちょっと怖かったけど……。

 でも、だからこそ少し心配。
 今はどうしてるのか気になった。