そうして大勢いた女子はいなくなり、この場にはわたしと皓也だけが残った。

 止血しなきゃ、とハンカチを取り出したところで皓也の視線に気づく。
 少し目を見開いた状態で、わたしを――わたしの手のケガを凝視(ぎょうし)している。

 皓也の所為だとでも思っているんだろうか。
 それは違う。そう伝えようと思ったとき、皓也の目の色が変わった。

 驚いた様な目が細められる。
 一瞬、何かに()えるように見えたけどすぐにそれも消える。


 妖艶(ようえん)、というのか。
 なんだか、急に色気の様なものを感じた。
 そのせいで皓也から目が離せない。

 皓也はわたしに近づき、血まみれの手を取る。
 その手を見る表情は、決して心配や痛々しいというものではなかった。

 何と言うんだろう……。
 まるで、美味しそうな食事を目の前にしたような……。


 ゾクリ、とした。
 皓也が怖い。

 それは、純粋な恐怖と未知のものへの期待と恐れ。
 本能が何かが危険だと(うった)えている様なのに、何かに()らわれたように動けない。

 ()せられたように皓也の行動を見る事しか出来なかった。


 そこに思いもしない声が響く。

「そうちゃん大丈夫!?」

 声に、動けないと思っていた体が反射的に反応する。
 見ると、加野さんが心配そうに近付いてきていた。
 その後ろからは安藤先生も来ている。

 皓也も声に反応したのか、さっきまでの怖いほどの妖艶さはなくなりサッとわたしの手を離した。


「そうちゃん、手! あいつらケガまでさせたの!? いくらなんでもやり過ぎでしょ!」

 血まみれのわたしの手を見てアタフタしつつ、怒りを(あら)わにしている。
 この様子だと、わたしが彼女達に連れて行かれたのを知っているようだ。

 その確認も込めて聞いた。
「えっと、加野さんはどうしてここに? 安藤先生も……」

「気づかなかった? そうちゃんがクール王子ファンクラブの子達に連れて行かれるときあたし後ろの方にいたんだよ」

 ああ、それなら見てただろうし知ってるのも当然か。

「すぐ後にクール王子――皓也君が来たから一応話してみたの、本人のファンクラブの事だし。でもそしたらすぐに走って追いかけて行っちゃうし」

 それで皓也が来てくれたのか。

「で、その様子を見て流石にヤバそうかなって思って、誰か先生探しに行ったの。そしたら職員室から丁度安藤先生が出てきた所だったから説明して来てもらったの」

 そっか、そう言う事だったのか。


 加野さんからは本気の心配の気持ちが伝わってくる。
 奔放(ほんぽう)なところもあるけど、友達思いの子なんだよね……。

 こういう子だから嫌いになれないんだ。


 ホンワリと心が暖かくなって、お礼を言った。

「ありがとう加野さん。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。でも明日香って呼んでって言ってるじゃない」
「あははは……」

 照れつつも名前呼びを要求してくる加野さんに、わたしはいつもの様に笑って誤魔化した。