「付き合っては、いないんですよね?」
 リーダーの子が確認してくる。

「そうだよ」
 これで納得して解散して欲しいと願いながら答えた。

 でも、またもや別の子が責めるような口調で言う。
「それなのに、手を繋いで一緒に帰ったんですか?」

「あれは繋いでいたんじゃなくて、引っ張られてただけだよ」
「何ですかそれ。わたし見てたけど、しっかり手は繋いでましたよね? (うそ)つくんですか? わたし達の事、バカにしてるんですか?」
「バカになんかしてないよ!」

 問答(もんどう)しながら、これはマズイと嫌な汗が流れてくる。

 さっきまで黙っていた子達も、怒りを(にじ)ませた声音でわたしを責め立てた。
 完全にヒートアップしてきてる。


 これは、逆に何も言わないでやり過ごした方が良いのかな。

「でも、嘘はついてますよね?」
「じゃあやっぱり付き合ってるんじゃ!?」
「そんな!」

 ダメだ。
 何も言わなきゃ言わないで間違った情報ばかりが横行(おうこう)してる。

 とにかく否定し続けるしかないか。
 そう覚悟を決めて口を開こうとしたとき、リーダーの子がわたしを真っ直ぐ見て言った。


「そうび先輩、可愛いからってあたしたちを舐めてるんでしょう!?」

「っ!?」

 そんなことない、とすぐに言えばいい。
 とにかく否定するしかないって思ったばかりなんだから。


 ――でも、その言葉はずっと心に刺さっている(とげ)鮮明(せんめい)に思い起こさせた。


『可愛いそうびはわたし達なんかと遊びたくないんでしょう?』

 小学校のとき、友達に言われた言葉だ。
 ケンカしていたときに言われた言葉。
 その後仲直りはしたけれど、その言葉だけはずっと棘になって()さったままだ。

 可愛いって言われるのに抵抗があるのは……可愛いからって特別扱いされるのが嫌なのは、きっとそのせい。


 泣きたくなるのをグッとこらえる。
 今泣いたら、彼女たちに泣かされたみたいに見える。
 こんな人の話を聞かない、言いたい放題の人達に泣かされたなんて思われたくない。

 そんな思いで、涙目にはなったけれど絶対にこぼすものかとこらえた。

 その間も彼女たちは好き勝手にわたしの悪口を話している。
 それらも出来る限り聞き流すようにして()えた。

 すると誰かの走ってくる足音が聞こえてくる。
 話している彼女たちは気付いていない。

 走ってきている人が助けだったらいいな、と思いながら振り向いた。
 そして現れた人物に目を見開く。

 助けになるかどうかとか考えることもなかった。
 ただその人物の表情に驚き、そして目が離せなかった。


 現れたのは、息を切らして、見たこともないほど切羽詰(せっぱつ)まった表情をしている皓也だった。