外はまだ風が寒い四月中ごろ。
 わたし、萩原(はぎわら) そうびは中学二年になって二週間を過ぎたところだ。

 外は寒いかも知れないけれど、窓ガラスを通り抜ける日差しは温かい。
 そんな太陽の光がわたしに降り注いでいる。

 窓ごしに校庭を見下ろすと、次が体育の授業なのか青いジャージ姿の生徒がチラホラ見える。


 ……あ……。


 何とはなしにジャージ姿の生徒を見ていたら、黒髪の中に一際目立つ色が見えた。

 日の光を浴びて輝く金の髪。
 少しクセのある髪が風に揺れていた。

 この二階の窓からは顔までははっきり見えないけれど、あの(きら)めく髪で一発で分かる。


「あ、一年のクール王子がいる」

 同じく校庭を見ていたらしいクラスの女子がそう声を上げた。
 その子と仲の良い女子が「なになに?」と近づいていく。

 別に聞き耳を立てるつもりじゃないけれど、近かったから彼女たちの話が聞こえてきた。


「あれ、あの金髪の男子!」
「え!? 金髪? 不良!?」
「違うって、あれ地毛らしいよ」

 キャアキャアと(さわ)ぐ彼女達につられて、更に女子が集まってくる。


「ここからじゃよく見えないけど、結構カッコいいらしいよ?」
「あ! あたしみたよー。女子にはニコリともしなくて、正にクール王子って感じ!」


 ……あの冷たい態度はもはや女嫌いって感じじゃないかな?

 彼女達の話を聞いて、こっそり何とも言えない表情をする。
 多分苦虫を噛み潰したような顔ってこんなだと思う。
 自分じゃ見えないけど。


「なんて顔してんの、そうび」
 いつのまに近づいていたのか、 優香(ゆうか)がそう言ってわたしの顔を覗き込んでいた。

 工藤(くどう) 優香(ゆうか)はクラスで一番仲の良い友達。
 そんな友達でも、いきなりどアップで目の前に現れたら言葉に詰まる。

「可愛い顔が台無しだよー」
「……」
 何と答えていいか迷って、また変な顔をしてしまう。

「何よその未完成な困り笑顔みたいな表情」
「それこそどんな顔よ」
 良く分からない表現につい突っ込んでしまった。

「はは、まあ、それはそうと。あれってなんの騒ぎ?」
 どうやら優香も騒ぎが気になって近づいて来たみたいだ。
 でもあのはしゃいでるグループに入る気にはなれずわたしの方に来たってところかな。

 そう当たりを付けたわたしは話題の人物を指さして「あれ」とだけ答えた。

「ああー……。あれね」
 それだけで納得してくれる優香。

 優香にだけはわたしと話題のクール王子・萩原(はぎわら) 皓也(こうや)の関係を話してある。
 別に秘密にすることでもないんだけれど、かと言って言いふらすことでもないから言わないでいた。

 そうしていたら、彼が入学して二週間経った今ではクール王子なんて言われて騒がれている。
 その所為で尚更言い出せなくなってしまった。


 ……別に、隠すようなことではないんだけれどね。
 皓也がわたしの義理のいとこだってことは。

 ……一緒に住んでるのは隠したいけれど。


 そう思いながら眼下の煌めく髪を見て、彼との出会いを思い出した。